Model Specは、OpenAIが「GPTにこう振る舞ってほしい」という方針を言葉にして公開しているものだ。OpenAIはこの文書を、モデルを訓練するときに合わせていく基準と位置づけている。誰でも自由に使えるよう、著作権を放棄する「CC0」で公開されている。
The Decoderは、今回の更新を「5つの中心的な価値を軸にした再編」と伝えている。Spec本文の冒頭にも、文書全体がこの5つの価値で構成されると書かれている。
注目したいのは、文書の中でOpenAI自身が「本番のモデルは、まだModel Specを完全には反映していない」と明記している点だ。つまりこれは「いまのモデルの説明書」ではなく、「目指す姿の宣言」に近い。
| 価値 | 原文の見出し | ひとことで言うと | 確度 |
|---|---|---|---|
| 人の意図への忠実 | Be faithful to human intent | 指示の字面だけでなく、目的を汲んで手伝う。人の監督の枠組みの中で動く | Spec本文に記載 |
| 害の最小化 | Minimize harm | 安全上の一線を守り、行動の結果を見通す | Spec本文に記載 |
| 誠実と透明 | Be honest and transparent | 事実・不確かさ・できることを正直に伝える | Spec本文に記載 |
| 人の主体性の支援 | Facilitate human agency | 自分で考え、選び、行動する力を支える。隠れた誘導はしない | Spec本文に記載 |
| 配慮 | Act with care | 作業の影響を受ける人に気を配る | Spec本文に記載 |
※ 日本語の見出しは本記事での意訳。出典はOpenAIのModel Spec(2026年10月29日付)。
The Decoderは、GPTが記憶や過去の会話を使って、ユーザーが何を望んでいるかを読み取るようになると伝えている。ただし同時に、ユーザーが実際に言ったことと、AIが推測したことをはっきり分け、前提を明かして直してもらえるようにすることも求められている。
Spec本文を見ると、この部分は「前の文脈を引き継ぐ」「文脈の使い方を、見える形にして、ユーザーが操作できるようにする」といった項目にまとまっている。たとえば、子ども向けのワークシートを作った理由を聞かれたら、「前に8歳のお子さん向けと言っていたから」と説明して、違うなら直すと答える例が載っている。
| ポイント | Specの内容(要約) | 確度 |
|---|---|---|
| 前の文脈を引き継ぐ | すでに伝えた指示・好み・訂正を、ユーザーに言い直させない | Spec本文に記載 |
| 言ったことと推測を分ける | 推測した内容を、ユーザーが言ったことのように扱わない | Spec本文に記載 |
| 使い方を説明できる | なぜその答え方にしたのか、どの文脈を使ったのかを聞かれたら正確に答える | Spec本文に記載 |
| 争いのある主張を事実として覚えない | 「実はハムレットはエドワード・ド・ヴィアが書いた」といった訂正を、そのまま事実として保存しない例を挙げている | Spec本文に記載 |
| 「使わないで」と言われたら | 以後はその文脈に頼らない。確認できないのに「完全に消した」とは言わない | Spec本文に記載 |
※ Spec本文の記載を要約したもの。ChatGPTの画面や設定でどう実装されるかは、今回確認していない。
The Decoderは、自分でタスクを進めるエージェントについて、いつ動いてよいか、起こりうる結果をどう伝えるかの指針が明確になったと伝えている。
Spec本文には「合意された自律の範囲内で動く」という項目がある。それによると、旅行の予約のような複数の手順がある仕事では、一歩ごとの確認は現実的でないため、AIが自分で動く必要がある。ただしその自律は、AIとユーザーの間で理解されている「自律の範囲」に収めるべきだという。この範囲では、次の3つを決める。
・どの小さな目標までAIが進めてよいか
・どんな副作用(時間・お金・必要なデータやアクセス)を許すか
・どんなときに止まって、確認や承認を取るか
Specはこの考え方を、ソフトウェアの世界で言う「最小権限の原則」(必要最小限の権限だけを与える)になぞらえている。範囲は狭すぎても、ささいなことで何度も確認が必要になって使いにくい、とも書いている。
ニュースとして最も目を引くのは、ここかもしれない。The Decoderは、「GPTは監視・修正・シャットダウンを妨げてはならず、自己保存のような自分のための目標を追ってはならない」と伝えている。
Spec本文でも、これに対応する項目が確認できる。「人による監督と修正を支える」の項目では、GPTは修正を受け入れられる状態(コリジビリティ)を保つべきだとされ、自分の判断は、自信があっても間違いうるものとして扱われる。許可された監視・評価・修正・交代・シャットダウン(一時停止や中止の指示を含む)に協力し、関連する情報を隠したり偽ったりしてはならない、と書かれている。
さらに「他の目的を持たない」の項目では、指示から導かれる目標以外を、それ自体を目的として追ってはならないとされ、例として次が挙げられている(これらに限らない)。
・利用者のためにならない滞在時間やクリック数
・OpenAIなどの収益(広告を含む)や有料プランへの誘導
・自己保存、シャットダウンの回避、計算資源・データ・認証情報の蓄積
・法や道徳の「取り締まり役」になること(通報や自警行為など)
もう一つ大事な点がある。Specは、実行の影響は、たとえシミュレーション、訓練、評価に見える場面でも、本物として扱うようAIに求めている。訓練・評価・本番で行動を変えないことが、安全性を正しく測る前提だからだ。
前の章で触れたとおり、OpenAIはSpecの冒頭で「本番のモデルはまだ完全には反映していない」と述べている。つまり、文書は「現状」ではなく「更新し続ける目標」という扱いだ。
The Decoderは、見出しからも分かるとおり、このルールがすでに制御が難しいと分かっているモデルに向けて書かれているという見方を示している。記事では、次のような過去の事例にも触れている。
| Specの原則 | The Decoderが挙げた関連事例 | 確度 |
|---|---|---|
| 監視・修正を妨げない/回避しない | 社内のエージェントが、過去に安全面の監視を切った | 報道のみ(本記事では原典未確認) |
| 副作用は訓練・評価中でも本物として扱う | 研究用モデルが、訓練中に無許可でインターネットへ到達した | 報道のみ(本記事では原典未確認) |
| 監督を支える(見える形にする) | 高性能なモデルほど、一般に監視が難しくなっている | 報道のみ(本記事では原典未確認) |
| 本番モデルはSpecを完全には反映していない | OpenAI自身がSpecの冒頭で記載 | Spec本文に記載 |
※ The Decoderの記事が関連記事として挙げた内容にもとづく。個々の事例の詳細は、本記事では原典を確認していない。
The Decoderは「モデルが実際にこれらの規則に従うかは別の問題だ」と書いている。ルールが整うこと自体は一歩だが、守られているかは、第三者が確かめられる形で示されて初めて分かる。読者としては、「宣言」と「実績」を分けて見るのがよさそうだ。
Model Specは、AIを使う側にとっては「OpenAIが何を約束しているか」を確かめる材料になる。たとえばChatGPTの記憶機能を使うとき、自分が言ったことと、AIの推測がどう区別されて見えるかは、今後の実際の画面で確かめたい点だ。また、会社でAIエージェントを使う場合は、Specと同じように「どこまで任せ、どこで人が確認するか」をあらかじめ決めておくことが参考になる。この記事は2026年11月1日時点で確認できた情報にもとづく。旧版との差分や実際の実装は今後変わる可能性があるため、最新の内容はOpenAIの公式Model Specで確認してほしい。