ChatGPTやClaudeのような「文章を作るAI」とは別に、「意味の近さ」を測るためのAIがある。それが埋め込みモデル(エンベディングモデル)だ。
やっていることは、文章や画像を、数百個の数字の並び(ベクトル)に置き換えることだ。地図で言えば、場所を「緯度と経度」で表すようなものだ。意味が近いものは近い座標に、遠いものは遠い座標に置かれる。たとえば「犬の散歩」という文章と、犬を散歩させている写真が、同じ座標の近くに来るように作られている。
この仕組みは、次のような場面で裏方として働いている。
EmbeddingGemma 2は、この「座標に変える部分」を担うモデルで、文章を書くAIではない。ここを最初に押さえておくと、以下の話が分かりやすくなる。
開発者ガイドによると、EmbeddingGemma 2はGoogleのオープンモデル「Gemma 4」をもとに作られた、10億パラメータ未満(sub-1B)のモデルだ。
最大の変化は対応するデータの種類だ。前世代のEmbeddingGemma 1は文章が中心だったが、今回はテキスト、コード、画像、動画、音声を、すべて同じ768次元の空間に変換する。種類の違うデータを同じ空間に置くので、「文章で検索して、動画の該当シーンを見つける」といった使い方ができる。
性能面では、ガイドが挙げる数字はMTEB(Code)で前世代より14%高いという点だ。コード検索や技術情報の検索が大きく改善したとされる。一方、多言語の文章の精度は前世代を維持したと説明されている。それ以外の数値は図表(画像)で示されており、本記事では扱わない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公開日 | 2026年10月6日(公式ブログの日付) |
| 開発元 | Google(Google DeepMind/Google Developers Blog) |
| 土台 | Gemma 4をもとにした10億パラメータ未満のオープンモデル |
| 対応データ | テキスト、コード、画像、動画、音声 |
| 出力 | 768次元の共通ベクトル空間(128〜512次元へ短縮可能) |
| 入力の長さ | 全データ種類で共通8,192トークン |
| ライセンス | Apache 2.0(開発者ガイドの記載) |
| 入手先 | Hugging Face(google/embeddinggemma-2) |
※ Google Developers Blogの開発者ガイドに基づく。エッジ向け解説記事ではライセンスの明記がなく「オープンウェイト」とのみ記載されている。
EmbeddingGemma 2は、1つのモデルを丸ごと使うのではなく、必要な部品(エンコーダー)だけを選んで読み込める作りになっている。文章・コード用の本体に、画像用と音声用の部品を追加していくイメージだ。
ガイドによると、追加される部品の大きさは、画像用が約170M、音声用が約300Mだ(ガイドの表現は「スピーチとサウンド用」)。組み合わせごとの大きさは次のとおりで、すべて同じ配布ファイル(チェックポイント)から読み込め、同じベクトル空間を共有すると説明されている。
| 構成 | 対応するデータ | パラメータ数 |
|---|---|---|
| テキスト+コード | 文章・プログラム | 270M |
| テキスト+画像 | 文章・プログラム・画像 | 440M |
| テキスト+音声 | 文章・プログラム・音声 | 570M |
| すべて | 文章・コード・画像・動画・音声 | 740M |
※ Google Developers Blog開発者ガイドに基づく。動画は既定で1秒あたり1フレームを取り出して扱う。音声は16kHzのモノラルが推奨。
スマホなどの小さな機器では、この「選べる」点が効く。文章検索だけが目的なら、画像や音声の部品を読み込まずに済む。エッジ向けの解説記事では、Pixel 11 Pro上のメモリ使用量が、文章のみで約191MB、すべてを読み込んで約567MBと紹介されている(Google自身の測定値で、第三者の検証ではない)。
検索システムでは、データ1件ごとにベクトルを保存する。件数が増えると、保存容量と検索の負担が大きくなる。そこで使われるのがマトリョーシカ型の学習(MRL)だ。ロシアの入れ子人形のように、先頭の数字だけを切り出しても、ある程度の意味が保たれるよう学習されている。
開発者ガイドによれば、768次元のベクトルを512、256、128次元に短縮して使える。短縮した場合の目安は次のとおりだ。
| 次元数 | 保存容量の目安 | 文章・コード検索の品質 | 画像・動画・音声検索の品質 |
|---|---|---|---|
| 768(そのまま) | 100万件で約1.5GB | 基準 | 基準 |
| 256 | 約3分の1 | フル品質の大部分 | 約95% |
| 128 | 約6分の1(100万件で約250MB) | 約90% | 約75% |
※ 保存容量はbfloat16形式で100万件を保存した場合の例。品質は768次元との比較でGoogleが示した目安。エッジ向け記事では、短縮による保存容量・インデックスの削減は「最大8倍」とも紹介されている。
ここで注意したいのは、短くするほど軽くなるが、特に画像・動画・音声では精度の低下が目立つという点だ。ガイドは、検索側(質問)と保存側(資料)で同じ次元数をそろえる必要があるとも説明している。 小さな文書検索なら128次元でも足りるかもしれないが、写真や動画の検索では256次元以上のほうが安心、というのが表の読み方だろう。
EmbeddingGemma 2は、クラウドだけでなく手元の機器で動かすことが強く意識されている。エッジ向けの解説記事によると、次のような実行環境が用意されている。
速度の例として、記事はMacBook M5 Pro のGPUで、画像1枚の埋め込みに37.3ミリ秒(毎秒26.9枚)と紹介している。また、判断用の部品は100ミリ秒未満で応答し、チェスのデモでは1回に500通りの手を評価した、とされる。いずれもGoogleが示した数値で、条件によって変わる点には注意が必要だ。
利用例としては、端末内の写真・動画を文章で探す「メディア検索」、動画の中から言葉に合う場面を見つけるツール、AIエージェントがコードを検索するデモなどが紹介されている。端末内で処理すれば、個人の写真や会議の録音を外部に送らずに検索できる可能性がある。ただし、実際にどう動くかは各アプリの作りによる。
ここまでの数字は、すべてGoogle自身の発表に基づく。第三者による独立した検証や、他社の埋め込みモデルとの詳しい比較は、本記事の時点では確認できていない。導入を考えるなら、次の点を自分のデータで試したほうがよい。
EmbeddingGemma 2は、話題になりやすい“新しいチャットAI”ではない。ただ、RAGや社内検索、写真・動画の検索など、実際のアプリを支える地味で重要な部分を、小さく、オープンに、複数のデータ種類へ広げた発表だ。
今後の焦点は、日本語を含む実データでの精度、他社モデルとの独立した比較、そしてML Kit経由でAndroidアプリにどれだけ早く載るかだろう。続報が出た段階で、改めて整理したい。
参考リンク: Google Developers Blog(開発者ガイド) / Google Developers Blog(AI Edge)