Future of Life Institute(FLI)は、AI安全性研究や政策提言で知られる非営利団体。2026年7月、独立した7名の研究者・ガバナンス専門家からなるパネルが、Anthropic・OpenAI・Google DeepMind・Meta・xAI・DeepSeek・Mistral・Z.ai・Alibaba Cloudの主要9社を対象に、公開資料と企業調査票をもとに採点した最新版のレポートを公表した。データ収集期限は2026年6月3日とされている。
結果は、9社中もっとも高い総合グレードを獲得したAnthropicでもC+にとどまった。A評価・B評価を取った企業は1社もなく、業界全体として「安全性への取り組みが十分な水準に達していない」というのがパネルの評価だ。このレポートの公表は、上海で各国政府がAIガバナンスのあり方を議論する会議が始まるのと同じ2026年7月のタイミングにあたる。
総合グレードでは、Anthropicが前回に続きC+でトップを維持した。2位以下はOpenAIとGoogle DeepMindがともにC評価で続き、OpenAIは前回のC+から評価を下げている。中位にはMeta・Z.ai・Alibaba Cloudが並び、Metaは前回のDから4位(D+)に順位を上げた数少ない企業となった。
一方、最下位グループのxAI・DeepSeek・MistralはいずれもF評価。xAIとDeepSeekは前回のD評価からさらに評価を下げており、Mistralは今回が初めての評価対象となった。
| 順位 | 企業 | 総合グレード | スコア | 前回からの変化 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Anthropic | C+ | 2.66 | → 変わらずC+ |
| 2 | OpenAI | C | 2.28 | ▼ C+から低下 |
| 3 | Google DeepMind | C | 2.01 | → 変わらずC |
| 4 | Meta | D+ | 1.32 | ▲ Dから上昇 |
| 5 | Z.ai | D- | 0.88 | ▼ Dから低下 |
| 6 | Alibaba Cloud | D- | 0.87 | → 変わらずD- |
| 7 | xAI | F | 0.65 | ▼ Dから低下 |
| 8 | DeepSeek | F | 0.47 | ▼ Dから低下 |
| 9 | Mistral | F | 0.33 | 初評価 |
※ グレード・スコアはFuture of Life Institute「AI Safety Index Summer 2026」の公表内容に基づく。スコアは加重平均によるもので、企業の自己申告を含む調査票の回答も評価材料に含まれる。
今回のレポートは、総合グレードだけでなく「リスク評価」「現在の実害」「安全フレームワーク」「実存的安全性」「ガバナンスと説明責任」「情報開示」の6つの領域ごとにグレードを付与している点が特徴だ。Anthropicは情報開示(B+)とガバナンス(B)で他社を大きく引き離す一方、どの企業も苦戦しているのが「実存的安全性」の領域だった。
パネルは、実存的安全性についてはどの企業も最高でD+にとどまったと指摘し、「危険な兆候を検出できても、それを防止する体制までは整っていない」と厳しく評価している。長期的なリスクへの備えは、業界全体でまだ手つかずに近い状態だといえそうだ。
| 評価領域 | 最高評価 | 各社の状況(要約) |
|---|---|---|
| ① リスク評価 | C+(上位3社) | Anthropic・OpenAI・Google DeepMindが横並び、下位はF近辺に集中 |
| ② 現在の実害 | B-(Anthropic) | Anthropicのみ突出。他社はC〜Fに幅広く分散 |
| ③ 安全フレームワーク | B-(Anthropic) | 中堅各社はC台にとどまり、下位3社はF評価 |
| ④ 実存的安全性 | D+(最高でも) | 9社すべてがC-以下。「検出は防止ではない」と酷評 |
| ⑤ ガバナンス・説明責任 | B(Anthropic) | Anthropicが突出し、2位以下との差が大きい |
| ⑥ 情報開示 | B+(Anthropic) | 上位3社はB前後、下位グループはD台に集中 |
※ 「最高評価」列は各領域でもっとも高いグレードを獲得した企業・グレードを示す。詳細な各社別グレードはレポート原文(PDF)を参照。
今回のレポートで特に注目されているのが、個別のグレードとは別にパネルがコメントとして示した業界全体への懸念だ。1つ目は、Anthropic・OpenAI・Google DeepMind・Metaの4社が、従来掲げていた軍事応用の禁止方針から転向しているという指摘。パネルはこの中でも、Anthropicの「疑わしい軍事関与」について名指しで批判している。
2つ目は、危険な一線を越えた場合に開発を一方的に一時停止するとしていた公約について、主要企業が後退させているという指摘だ。パネルはこれを「ゴールポストの移動」と表現し、企業リーダーの対外的なメッセージと実際の商業行動が乖離していると総括している。特にGoogle DeepMind・OpenAI・xAIについては、指導部の発言と実行内容の矛盾が指摘された。
| 懸念事項 | 該当企業 | 詳細 |
|---|---|---|
| 軍事利用への転向 | Anthropic・OpenAI・Google DeepMind・Meta | 従来の軍事応用禁止方針から転換。Anthropicの関与を名指しで批判 |
| 一時停止公約の撤回 | 主要企業全般 | 危険な一線を超えた際の一方的停止公約が後退。「ゴールポストの移動」と指摘 |
| 実存的安全性の弱さ | 9社すべて | 全社がC-以下。最高評価でもD+にとどまる |
※ 懸念事項の内容はFuture of Life Instituteのレポートにおけるパネルコメントの要約。個別企業の主張・反論を検証したものではない。
Anthropicは総合トップを維持したものの、軍事関与への批判に加え、危険な一線を超えた際の一時停止に関する公約を後退させたことについてもパネルから指摘を受けている。OpenAIは外部テストの拡大などリスク評価で強みを見せる一方、指導部の対外的な発言と実行内容の矛盾が課題として挙げられた。Google DeepMindはフロンティア安全フレームワークを更新したものの、独立監査体制の不明確さが指摘されている。
Metaは前回6位から4位に順位を上げたが、内部通報者保護と実際の企業文化のギャップが指摘された。そしてxAI・DeepSeek・Mistralの3社については、安全性の絶対的な基準を満たせず、揃ってF評価にとどまったとされている。なお、これらの評価はFLIが設定した指標と専門家パネルの見解にもとづくものであり、各社の安全性を公的機関が認証したものではない点には留意が必要だ。
各国政府がAIガバナンスのルール作りを本格的に議論し始める一方で、独立した専門家パネルの評価は、業界のトップ企業でもC+が精一杯という厳しい現実を示している。特に、長期的なリスクに関わる「実存的安全性」の領域で全社が低評価にとどまっている点、そして軍事転用や公約撤回といった「言行不一致」への指摘が相次いでいる点は、今後のガバナンス論議でも焦点になりそうだ。次回の評価でどこまで改善が見られるか、引き続き注目したい。
※ 本記事は、Future of Life Institute「AI Safety Index Summer 2026」の公表レポート(および同レポートを報じたAxios・Verity Newsなどの記事)、および上海「世界AI協力・ガバナンス会議」に関する中国政府系メディアの報道を基に構成しています。企業側の反論・見解を網羅的に検証したものではない点にご留意ください。
参考リンク(主要ソース): Future of Life Institute / Axios / CGTN